コーヒーの思い出

コーヒーが飲めるようになったのは、けっこう遅く、20代になってからだった。
20代初めの頃、友人と下高井戸の映画館にジム・ジャームッシュの「コーヒー&シガレッツ」を見に行ったのがきっかけだった。
映画の内容は、オムニバスだったこと、ミュージシャンが出てきたこと、登場人物達がみんなコーヒーカップで乾杯してたこと、それ以外はよく覚えていない。(私は大体覚えが悪い)
でも、確かにその映画を見てコーヒーが飲めるようになりたいと思ったのだった。
そもそも、本当に今まで自分はコーヒーが飲めなかったのか。それまでずっと、コーヒーといえば、砂糖と牛乳が入った「コーヒー牛乳」をコーヒーだと思い込んでいて、そしてそれは未だに飲むことが出来ない。ブラックコーヒーだったら、もしかしたらもっと前から飲めたかもしれないけれど、今となってはわからない。
とにかく、映画を見た後日、高円寺の昔ながらの喫茶店で、思いきってコーヒーを頼んでみたら、美味しかった。
コーヒーを飲んでみたいと思ったきっかけは、映画の雰囲気に流された「なんかコーヒー飲める人になりたい」というなんとも浅はかなものだったけれど、今はただ単純にコーヒーが好きだ。味の違いがわからないといいつつ、やはり、安いコーヒーを飲んでばかりの時にちょっと良い、こだわったコーヒーを飲んだ時はその美味しさに感動する。

朝10時過ぎ、窓を開けていると下の階のコーヒー屋さんが焙煎している良い香りがしてくる。とても幸福感を感じるひととき。
ここでふと疑問をもつのだけれど、私はコーヒーが好きだから、無論、焙煎の香りもとても良い香りと思うけれど、好きではなかったあの頃の自分には、どの程度この香りの良さがわかるのだろう。

小学生の頃、まだ父の仕事は週休2日制ではなかったし、小学校も土曜は半日授業があった。
時々、父が休みだったのか、先に帰ってきてたのか、あまり覚えてないけれど、とにかく、私が下校すると家に父がいる日は匂いでわかった。
コーヒーとタバコの匂い。
土曜のその匂いはなんだか好きな匂いだった。それは、父がいるという、非日常感が嬉しかったからなのだろうか。しかし、その当時そんなに父に懐いていなかった私には何だか不思議である。
コーヒーの香りには、癒しの効果があるという。
次の日が日曜日ということも相まって無意識に癒されていたのだろうか。

なんだかコーヒーに対する思い出などをジム・ジャームッシュよろしくオムニバスのように書いてしまった。
そして、コーヒーに関する思い出はもっと沢山あるのだけれど、それはまたいつか。。。

2020/05/18